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「ゴルフ場は自然がいっぱい」(田中淳夫・ちくま書房だっけ)を読了。タイトルがいきなり逆説的だが、そういう「ゲーム性のないギャルゲーは(以下略)」のような逆説的なタイトルが流行っているらしいので、ここの日記ネタとして半分、興味半分で読んでみた。以下、その感想。
・ 中身はなんというか、トンデモとも言えないがよくわかってるとも言いがたい、中途半端な自然に関する知識に裏打ちされており、かといって今後のゴルフ場の建設や経営のおともに、とすすめられるかというとおそらく一笑に付されるであろうシロモノだった。
・ まず、ここでとりあげられている「ゴルフ場」は、中山間地(植生自然度6〜9)を開発してできた(またはこれからできる)ゴルフ場に限定しているようで。日本には河川敷や干拓地がゴルフ場になっている所がそれなりに(?)あるが、多分それは比較して少ないのだろうだからここでは範疇外。その上で。
・ 著者は林業が専門…なのか、「林業ジャーナリスト」らしい。そゆ意味で、過疎地とか言われる中山間地が抱いている問題には敏感なのだと思う。ブログを読む限りでも、現地に入り、人と話し、問題点も山ほど目の当たりにしている人だと思う。そういう意味で、「自然と共生するゴルフ場」は、自分もアリだと思った。俗に言う里山の管理の手法として、また地域振興の一つの策として、アリかもしれぬと思った。でも同時に、課題も山積だなとも。
・ まず「ゴルフ場の半分が経営がヤバス」と冒頭で指摘しているのであれば、そういうゴルフ場はさっさと撤退してしまえ、できれば自然に戻すべきだとオモタ。どんなに影響が小さくてもゼロではない農薬を撒いているのだし、経営が苦しいとコース改良と称して建設残土や産業廃棄物を埋めて食い扶持をつなぐ悪質なゴルフ場経営者もいることだしな。
・ 農薬の問題は恐らく今後、行政サイドの締め付けの強さ次第ではあるが解決されるだろう、という感想を抱いた。ただ、野生生物の観点からの農薬問題の解決は、まだまだ先のことになりそうだなと思ったが。
・ 土地開発の問題については、問題点を列挙はしているものの、これをカバーできるほどのものはほとんど何も書かれていない。これがこの本最大の欠陥。というかコレがダメな時点でこの本はダメだろうと。土地開発による遺伝資源の喪失については記述が非常に弱く、また、それの解決策がほとんど示されていない。
・ 以下ちょいと邪推が混じる。著者は林業が主な分野らしいが、日本の農業、林業、園芸業、それにマスコミ関係者がしょっちゅう陥る自然に関するカン違い、「みどり」を「自然」と捉えている向きが多分にある。明確に書いているわけじゃないが、タイトルと全然関係のない「緑(緑化)への賛美」が少なからず一部を占めている。芝生がカーボンニュートラルとか、関係ないどころかみたいな記述も。前述の土地開発の代替案がコレという風にも読めるのはうがちすぎか。
・ 乾燥地を緑化するのにはそれだけの水という資源が必要であり、砂漠に植物を植えるのは自然破壊にもなり得るということが、ちょっとわかっていない模様。その区別がわからない読者は緑を自然と混同する可能性が高く、悪質なジャーナリズムすら感じられる…は言いすぎだな。とりあえず邪推終わり。
・ その一方、ゴルフ場で確認できた動植物種のリストを例に挙げている。どこのゴルフ場かは書いてないが、18種も鳥類がいなくなったらそれはダメ開発だろ、しかもそれについては種名を挙げず、現行のゴルフ場に確認できた(それも繁殖、越冬、単なる通過?の区別は不明)鳥類だけ書かれてもソレガドウシタ。この辺は都合の悪い情報を隠している書きぶりで、明らかに悪質。本編でゴルフ場反対を唱える(というか乗っかる)マスコミの悪質さを批判しているが、本人も同じ穴のムジナ。
・ 残っている自然が素晴らしい、は当たり前。元がいいから多少ヘタクソなコーディネートをしたって残るものは残るし、その中には絶滅危惧種もあるだろう。だが、その消えた種が問題なわけなのよ、開発ってヤツは。残った種にしても客の機嫌次第で消される危険性を多分に孕んでいるし、それが会員権の価値の低下につながれば消される危険度はぐんと高まるだろう。
・ 「人手による撹乱により維持できている環境」即ち里山環境の維持の担い手としてゴルフ場は、確かにアリかと思った。ただ、それにしても前述の土地開発という問題については、どうクリアするのか。仮にクリアしたとしてそういうコースは既存の顧客に受け入れられるのか、会員権の価値は上がるのか、全国の里山がゴルフ場と共に守られるのか? 申し訳ないのですがまったくビジョンが浮かばない。本人の望むところではないかもしれないが、結果として現行のゴルフ場(開発・管理)を追認しただけの本になっている。
・ どんなゴルフ場になるのか、一枚でも青写真があれば説得力はあったかもしれない。例えそれが、コースの大部分全て地下水位が高く長靴どころか胴長でないとまともに歩けないような、プロゴルファー猿の裏プロゴルファー養成所もびっくりなコースだったとしても。欧米のゴルフ場を例に挙げている所もいくつかあるのだから、せめて「本土の自然を守ってるゴルフ場」くらいは紹介できなかったものか。アメリカあたりならあるような気がする。
・ 最後に富良野の破産したゴルフ場を自然に戻す取り組みをちらりと紹介していたが、これが全てなのかもしれない。経営破たんしたゴルフ場は自然に戻しなさい、その一文で済むような。
・ 名古屋でCOP10を控え、それに向けて行政も政治家も環境保護団体もその他諸々がそれなりに活動している時期なだけに、この本は厳しい。いっそのことこの本、SATOYAMAイニシアチブとタイアップして英訳出版してみたら、色々な意味で面白いかも。「里山を守るためにはゴルフ場開発だ!」くらいのオビつけて。