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若くして、できちゃって結婚。
駆け落ちした私たち夫婦に頼れる大人はいない。
いつまでも泣き止まない息子と家事をまったく手伝わない旦那についイライラしてしまう。
手探りの子育て。慣れない料理洗濯。掃除に追われ、疲労困憊の毎日でした。
いったい何日目だろう。いったい何度目だろう。
また相談もなしに旦那が仕事を辞めて帰ってきた。
帰ってくるなりお酒をあおる旦那。
その日突然送られてきた消費者金融の請求書を突きつけヒステリックに問い詰めると、泥酔した旦那は私を殴ってどこぞかへ行ってしまった。
そんなつらい日々を忘れさせてくれるのが、唯一パチンコだった。
この日も3,000円だけ。3,000円使い切ったら辞めるつもりが既に20,000円が飲まれていた。
もうやめよう。もうやめよう。
ハンドルから手を離しかけたその時、遂に確変が。
せめて4連チャンして・・・いや5連チャン。そう祈っていると、そこから一時間当たりっぱなしだった。
12連チャンし、足元にはドル箱が積まれていった。
時短が終わり時計を見ると、もう2時間半経っていた。
店員を呼び、出玉をジェットカウンタに流してもらう。
15,760発のレシートを受け取り、景品カウンタに行くとある景品にふと目が止まった。
夏限定の景品、カブトムシだった。
時間も忘れてパチンコに熱中した後ろめたさから、息子にカブトムシをあげたくなった。
これが息子にとってはじめて見る本物のカブトムシだろう。
まだ、幼稚園にも行っていない息子にカブトムシの価値なんてわかるはずも無いけれど。
500玉で交換した、飼育セットつきのカブトムシと45,500円分の景品を受け取り、換金所へ向かおうと自動ドアを出た瞬間、エアコンが効いた店内と回りの温度差に驚く。
陽炎立ち上る駐車場の真ん中に見える自分の車。
その中で待つのは・・・。
カブトムシはそういう車の中に置いてはいけない。
深夜の馬鹿力。カブトムシの飼い方、より。