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まるごと☆リンダちゃん #262
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■賃労働三十日目
さて、攝津正である。
スローワークも本日で三十日目を迎えた。本来なら、土
曜日にそうなっているはずが、体調不良で初めて欠勤したので、今日に
なった。今日は、全く無事であり、一日休んだらもう二度と出勤できぬ
のではないかというのは杞憂に終わった。私は、もし可能であるならば、
壮年期を新晃でのスローワークに捧げたい。つまり、二十年労働したい
と思っている。そんなことが可能かどうかは、まさに世界市場、世界資
本主義の動向次第なのであるが。パートのおばさんである、84歳のMさ
んに、朝の送迎バスの中で、鈴木章治のCD4枚を渡す。昼休み、彼女か
ら、給与明細をいただいた。15日に振り込まれる金額は、145,773円で
ある。これを多いと解釈するか、少ないと解釈するかは人次第であろう
が、私としては大いに満足している。というのは、私は、33歳になる今
まで、100,000円を超える月給を貰ったことがなかったからである。こ
の収入は、借金返済に充て、残額は攝津家の生活費とする。
本日の仕事を概観すると：午前中は菓子ボールにてお菓子の入った段ボ
ールを切る作業。耳を切ったり、窓を作ったりする。それで暮れる。職
場は静謐で落ち着いた雰囲気。昼休みを挟んで、いつものピッキング＆
オリコン作り＆シール作業。12:30-16:00過ぎまで続け、上司のTさんか
ら、酒ボールで一人具合が悪くなった人がいて人手が足りないので応援
に行けと言われいつもの缶チューハイを6本袋詰めにし積み上げる作業
を18:00まで続けて、帰宅。
武蔵野線は人身事故で遅れていた。
今日聴いたのは、昼休みにUAの『泥棒』。帰りに、『ブルースの誕生』。
ボーン・ウィズ・ブルースというのをブルースの誕生と訳すのが正しい
かどうか分からぬ。ブルースと共に生まれて、くらいではないか。
帰りの電車内でウィリアム・ジェイムズ『プラグマティズム』の最初の
数ページを読む。考えていたのは、フェリックス・ガタリのこと。彼は、
私の意見では、素朴な楽天家であった。彼は、フロイト-ラカン流の決
定論や宿命論を拒否し、自由があると信じ、創造、世界の中に新しさが
もたらされるということを承認した。また、彼の唱えたスキゾ分析なる
ものは、柔軟なもので、非常にプラグマティックなものであった。ウィ
リアム・ジェイムズは、哲学において硬い心と軟らかい心との衝突があ
るというのだが、哲学から分岐した非-哲学ないし?-哲学たる精神分析
なりマルクス主義にもその伝統は受け継がれており、決定論を固守する
原理主義者と、自由なり創造、多様性があると信じる経験主義者がいる。
素朴な楽天家であったフェリックス・ガタリが何故、『分裂分析的地図
作成法』のような『知の欺瞞』そのものような大著をものしたのか。そ
れは、彼が生まれた時代が不幸だったためである。彼は、構造主義を拒
否するのに、構造主義の用語をもってしたために、シンプルに語れなく
なってしまった。ガタリの単独著作はレインのそれに似ている。素人が
哲学を齧るとどうなるかの見本と酷評してもいいだろう。わけわかめな
トンデモになるのが落ちである。しかし、私はそんなガタリが好きなの
だ。ガタリの言葉の一々ではなく、その精神が好きだ。そして私は、ガ
タリはその精神においては、ジェイムズ的であったと思う。つまり、原
理原則に対して厳格でなく柔軟であり＝言い換えればプラグマティック
であり、人間の自由なり偶然、創造を信じた。私はガタリの下らぬ理論
──それはガラクタだ──をではなく、その精神を継承する。
スラヴォイ・ジジェクが、ユングの著作に「リゾーム」という言葉が既
に使われているということを『身体なき器官』で指摘し、それでドゥル
ーズ＝ガタリはユング的だと言いたいような風情なのであるが、私はそ
んな議論の仕方は下らぬと思う。それにユングだって、知識人なり批評
家が貶めるほど馬鹿げた文章を書いているわけではない。
私は、フロイト-マルクスを拒否する。
というのは、人間的事象が全て必然的に決定されており、自由なり偶然、
創造が入り込む余地が全くない、という擬似科学的教説を全面的に拒否
するからである。私は、精神分析であれ史的唯物論であれ、原理主義的
ないし教条主義的に適用されるのであれば戯画にしかならぬと思う。例
えば、私の知っている批評家は、講演会場のトイレで誰かとすれ違えば
それも無意識的なる必然と解釈し、誰かのパソコンが壊れたと言えばそ
れも無意識的なる逃避だと解釈するが、── 私は彼に反対し、人間本
性における無邪気なるもの、無垢なるものはあると思うし、自由、偶然、
創造、それにナンセンスは存在すると信じている。
生それ自体はナンセンスなものである。例えば、夢なども、それ自体と
してはナンセンスである。夢の「意味」が作られるのは覚醒した瞬間だ。
その意味なるものは事後的であり、アポロンの神託同様、如何様にも解
釈できる多義的なる暗示なのである。だから、夢の印象なり雰囲気が生
活を覆い尽くす時、精神病が発病するのだ。
私は、フロイト-ラカン的精神分析、或いはマルクス-アルチュセール的
史的唯物論などの信奉者になるよりは、まだしもカール・ポパーの支持
者であるほうを選ぶ。要するに、教条主義者であるよりは自由主義者で
あるほうがまだましだと考える。
話を今日の労働に戻せば、──私は深く幸福であり、自由であり、労働
を楽しんですらいた。自由というのは恣意という意味ではなく、自己の
自然本性に忠実に潜在能力を開花させるという意味である。──私は職
場にいて、周囲の道具なり同僚に愛着を覚えるし、慣れ親しんだと感じ
る。職場にいる時、ここが私の居場所だと思える。だから、二ヶ月の試
用期間を終えた後も、私を雇用していただきたいと思う。そのために、
環境に適応しようと私も努力する。
私は昨日不安であった、──僅か一日欠勤しただけで、その後も惰性的
に出勤出来ぬ状態に陥るのではと危惧したのである。しかし、既に書い
たように、それは杞憂であった。私は、今日も元気一杯に精一杯全力で
一所懸命働くことが出来た。私は楽天的であり、陽気であり、明朗快活
である。──明朗快活なる鬱病患者など、円い四角のような矛盾ではな
いか、と思われるかもしれないが、しかし、「あるものはある」のであ
り、頑固な事実は頑固な事実として執拗に存続するのだ。つまり、私と
いう人間の個性、特異性が存続する。──下らぬナンセンスだとしても、
それは「ある」。あるという事実性に安住しているものを、なくしてし
まうことはできぬ。暴力なりによって以外は。
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まるごと☆リンダちゃん
編集：リンダちゃん（攝津正）
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